デンドロカカリヤ

コモン君がデンドロカカリヤになった話―安部公房「デンドロカカリヤ」

安部公房のデンドロカカリヤという作品は、とても奇妙なSFです。端的に言えば、冒頭に書いたように、コモン君がデンドロカカリヤになった話です。
安部公房の作品は、デパートの屋上に居た男が棒になったり(「棒」)、詩人が糸になってジャケツに編まれたり(「詩人の生涯」)することが多いですが、デンドロカカリヤという字面からどんなもんに変身したのかと読者は思うわけですが、こちらがそのデンドロカカリヤです。和名はワダンノキと言って、小笠原諸島に自生するキク科の木本植物です。キクなのに木本なんですね。

こちらは小石川植物園のリニューアルした温室です。作中出てくるのはK植物園。安部公房も実際に小石川植物園でこれを見たのではないか~というのですが、当時の個体なんでしょうか。

小石川植物園には「冷温室」という、矛盾を孕んだ温室があります。ここは常に冷涼な環境が保たれていて、高山植物のサンプルもここに保存されています。

つつましいクロマメノキ
つつましいガンコウラン

デンドロカカリヤも小笠原の固有種で、孤立しているという点では高山植物と似ています。絶滅危惧種ではないけれども、その島、その高山に固有の生態系を構成するのに欠かせないものです。

ライチョウ、オオカミ、トキ、ジュゴン…彼ら「目立つ」絶滅危惧種を助けたいと願う時、最終的には彼らを支えている生態系そのものを保存しなければいけないんだ、というところに行きつきます。(そういうところに行きつかない生態系保全というのは、ちょっといかがなものかという活動が多いように思います)
こうして、デンドロカカリヤやクロマメノキ、ガンコウランなどを本来の生育地から切り離し、温室を設けて保存するのは学術的に非常に重要な事ではありますが、保護とはまた違うものなのです。これは、「野生絶滅種」になった時のバックアップとして重要なのです。

動物に目を向けると、日本の動物園で見られる野生絶滅種はシフゾウです。彼らはもう野生の状態では生きているかどうかわからないです。

このままいけばそんなに遠くない未来にニホンライチョウも野生絶滅種となり、動物園で保存される存在になってしまうのかもしれません。

葉でわかる高山植物

アオノツガザクラ

ライチョウの研究というのはライチョウだけ見ていればいいというもんでもなく、例えば、ライチョウが今ついばんだ謎の植物の名前を知らなければいけません。そこまでライチョウさんは教えてくれないのです。
別に、謎の草A、B、C、、、でも構わないんですが、それを論文にしたとき、読む人が、で、それってなんなの? となってしまうわけで。
かといって、大学3年生4年生で高山植物を「葉だけで」同定できる人間はまずいないのです。

<にわかには見分けがつかない植物の例>
アオノツガザクラ―ガンコウラン
 …アオノツガザクラの方が葉が大きく、鋸歯が目立つ

クロマメノキ―クロウスゴ―マルバウスゴ
 …葉が出ている場合 クロマメノキは鋸歯がほとんどなく稜が目立たない。クロウスゴはクロマメノキより稜が目立つ。マルバウスゴは枝分かれが細かく、葉が丸い、鋸歯がある、稜が目立つ。
 …葉が出ていない場合 半ばお手上げ

コケモモ―コメバツガザクラ
 …コケモモの方が葉が大きい。ただし、葉の小さいコケモモもいるので注意。コメバツガザクラは岩礫地に多く、コケモモはハイマツソデ群落に多い。

<お手上げ>
イネ科、カヤツリグサ科、蘚苔類、ササ

高山植物図鑑は「花」で検索します。
花というのは各植物で特徴が出るので、同定しやすいんですね。
ということは、大学3年生の夏に高山でワンシーズン過ごして花と葉と植物名を一致させ、翌年勝負かければいいんですが。


ただいま、就活時期が夏に寄ってきたため、夏場に学生さんが長期で調査に入るのは難しいんだと。
私が学生の頃はGW頃には就活の決着が付いていたので、あとは山籠もり状態だったんですけどね。。。
世知辛い世の中です。

チングルマのフェノロジー

この動画は特別な許可を得て撮影されました。

桜前線をご存じでしょうか。
高山にもサクラと同じバラ科の植物、チングルマが存在します。
雪が溶けてから、どれだけ温度を蓄積したら開花するかなぁというのがわかれば、雪の溶けた時期でも「チングルマの開花前線をたどれば雪の積もり方がわかる」というロマンあふれる研究をしてました。
雪がある時期には山に入れないけど、チングルマを見れば植物目線の雪の状況がわかるよね、という趣旨です。

難しいことはともかく。
おおーーっという感じ、しませんか?