気候正義

9月23日ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットで、スウェーデンのグレタ・トゥンベリ氏(16歳)が演説を行いました。

NHK NEWS WEBにその全文和訳が掲載されていたので、読んでみました。

「私たちは大量絶滅の始まりにいるのです。なのに、あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よく、そんなことが言えますね」

出だしの辺りが人々の心をわしづかみにしてくる意欲的な演説だったようです。
内容としては、彼女のようなティーンエイジャーの立場から、地球温暖化の問題を先送りにし、あまつさえ若者にその解決を押し付けようとしている「現在の大人たち」への非難し、今すぐ解決せよとアクションを迫るものです。

彼女の主張は世代間の不平等を訴えている側面があります。
また、二酸化炭素の排出に関して言えば、二酸化炭素を大量に排出しているのは世界の中でも裕福な国々で、途上国は排出していません。
けれども、どんな世代もどんな地域の人も地球温暖化によってさまざまな不利益を被ることになります。
これは不平等ですね、という立場に立つのが気候正義(気候公平性)です。
もちろん、ライチョウを含めてあらゆる生物に拡張しても良いと私は考えています。

私が地球温暖化の問題に初めて触れたのは、学研のまんがサイエンス(あさりよしとお)で、それが90年代半ばのことなのです。そこから地球温暖化の問題は解決したかと言うと、全く解決せずに、排出量はどんどん増えていったのです。

じゃあ、どうすればいいのか、どうしたらよかったのか。
この点について、この日本という国はほとんど無策だったのかもしれません。野生生物の話で申し訳ないのですが、シカが問題だ、クマが問題だと比較的卑近な環境の変化には敏感に騒ぐものの、『地球』温暖化というと、途端にふんわりとしてしまいます。なんだか、北極の氷が解けるような、遠い国の氷河が消えるような。そんな感じなのかもしれません。
温暖化懐疑論というものがありまして、私も一時期懐疑論について多く調べていましたが、しかしながら懐疑論では近年の気候変動を説明できないのです。
ここ数年でその流れが変わってきたのかもしれないと思うのは、集中豪雨や台風の害が甚大化してきた後に、温暖化の影響と説明がつくようになってきてからです。
もっと早くにライチョウはその影響を受けて、数を減らしていたかもしれないのですが、やはり他人事で、実際に自分たちの喉元にナイフを突きつけられるまで、当事者意識というのは生まれないものかもしれません。ライチョウはいち早く温暖化の影響を受ける生物ですが、ちょっと身近さが足りなかったのではないかと思います。

とはいえ。ライチョウの生態をもっと追及することは、地球温暖化に対して「具体的な」アクションを迫るグレタ氏の意見を補強する物であります。

具体的にどうしたらいいのか。
脱プラスチックを叫ぶなら、タピオカ飲んでる場合じゃないのです。
働き方改革を叫ぶなら、とっとと帰らなければいけません。
Think globally, act locally
 一人でも多くの人がそうすれば、大きなムーブメントが出来上がります。

ライチョウのフン

耽美なフン

9月の或る日のこと。
野生生物を扱っていると、たいていフンを扱うと思われる。シカのフン、クマのフン、ライチョウのフン…となると自分のフンのチェックだって欠かさない。
いつものように流す前に色形をチェックしたところ。

黒い。

説明しよう。自分のウンコの色が、茶色~黄色ぐらいは正常である。
白、黒、赤はいけない。

白いのであれば、胆汁が出ていない。
赤いのであれば、大腸の下部で出血している。つまり痔である。
黒。これもまずい。消化管の上部で出血している場合がある。

胃がんか? 大腸がんか? ああ、保険はいっとけばよかったなどと、頭の中で一通り考えを巡らせたのち。

うん。昨日はイカ墨スパゲッティをおいしくいただいたんだったね。

このように。フンは食べているものによって色形が変化します。
ライチョウの場合も顕著で、写真の紫のフンは紫のものを食べたからで、緑のものを食べると緑のフンが出てくる。ふざけてなんかいない。本当である。ライチョウだってイカ墨を食べたら黒いフンが出るに違いない(そんな日は来ないと思いますが)。

今ぐらいの時期、ライチョウはクロウスゴ、クロマメノキ、ガンコウランなどの果実を積極的に採食します。結果、糞はその種と色味が出てきます。春先はガンコウランの旧葉などを食べているので、硬くて茶色いしっかりしたフン。夏の間は柔らかい葉を食べるので緑色のフン。そして、秋には紫になるのです。
現在、中部大学にて、ライチョウのフンからDNA解析で食べたものを突き止められないかという研究が進行中です。
ライチョウの口元を撮影するのは正確ではありますが、見えてないところで何を食ってるかわかりませんので、そこはこういう研究がカバーしてくれるものと思います。

よだかの星

うつむきかげんから
パカッと

オーストラリアガマグチヨタカ先輩を拝みに池袋サンシャインシティのヘンな生き物展行ってきました。かわいいですね。アンニュイなのは、単に昼間だからでしょうか。

ライチョウ先輩のクチバシとくらべると、かなり、すごく、大きなクチバシです。
昆虫を食べるのに適していそうです。

宮沢賢治のよだかの星を読んで、いつか会いたいと思ってましたが、なかなかキュートでした。
よだかの星(青空文庫)→https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/473_42318.html

命ってなんだ、という話だと勝手に思ってますが、どうでしょう。
星も獣も虫も鉱物も植物も魚も菌も鳥も、科学の前では等しく命です。

ライチョウで飯が食えるか

同窓会にて。

「今何やってんの?」
「経理だよ」
「すごーい、どこで経理の勉強したの???」
「……」
どうも、世の中、自分の学んだことしか職業にしちゃいかんような呪縛に囚われている人がいるようですが、そんなことはありません。
ちなみに経理も生態学も私にとっては大差ないことです。

修士1年の秋。
就職しよう、と思いました。

大学4年生から2年間ライチョウを追いかけ続けた私の心になぜそういうココロが芽生えたのでしょう。
大学の研究室に出入りしていて、研究職で身を立てるのは大変そうだとわかったこと。
それから、山小屋で、皿洗いや床磨きを一生懸命やって、「働く」ということがどういうことなのかが少しわかり始めたこと。
山の中で過ごして、当時ひん曲がっていた心根が、素直になったこと。
そして、なんだか、社会に出ても大丈夫なんじゃないか、と妙な自信がついたこと。

「アナタは絶対研究者向き。公務員や会社員には向いていない」と周りから言われていたけれども、そうだろうか? 周りがそう言っていたからそんな気がしていただけで、本当のところは社会に出てひと暴れするのが今生のお仕事なんじゃないのか?

そんなこんなで、ゼミのスキマを縫うように就職活動を開始。
後輩の卒論を見ながら面接を受け続け、納得のいく就職先に出会えました。

後々、人事の偉い人に「なんで採ってくれたんです?」と尋ねたところ「山小屋に入って何カ月も調査に出てたってとこだよねー」だそうで。
どこに放り込んでも(例えば僻地の古い事業所)生き残りそうだということで。
実際、その後、各地を転々としながら、ちょいとハードめの育てられ方(詳細省略)をして、今の今まで元気に生きてます。さらにしぶとく、図太くなってます。

先生からは「君はずっとライチョウの研究をしてくれるものだとばかり思っていた」と言われました。
すいません。私はみんなが思っているほど、研究職には向いていないんです。 どちらかと言えば、人を引っ張るよりも押し上げるのが得意なのです。

一方で、ライチョウの事はライフワークとして、サイドストーリーとして、老後の楽しみとして続けていければ良いのかなと思っています。
ライチョウの研究でご飯は食べられないから、他で飯のタネを見つけて、余った時間とお金をライチョウにつぎ込んだらよろしいのです。

ただ私が老後を迎える前にライチョウが滅ぶと、私の老後計画が破綻するので、それは食い止めたいところです。

台風と熱中症

台風15号の風が吹く中、普通に出勤しまして。
近場組と車、二輪車組は到着。
電車の遠方の人は「昼まで電車動かないって」「おとなしく休んでください…」

2011年の地震の時、東北のある都市で勤務してました。
あの時、上司が当然のように出社して言ったことには「連絡なんかしなくても皆出社してくるだろう」。
災害で、ガソリンの供給がなくなって、停電して、信号機も止まっていて、それでも職場に向かうのって、どうなんだろうと新入社員なりに思った記憶があります。

今回の台風で、やっとそういう議論が出てきて。10年以上かかって、ようやく気が付いたんですね…家で、家族を守る方が、会社に行くことよりよほど大事です。

停電で、エアコンが使えず熱中症になる方が出ています。エアコンが無ければ我々夏を乗り越えられないかもしれないのかもしれません。
熱中症の傾向を厚生労働省が公開していました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121413.html

残念ながら昭和の頃のデータは無いようですが、それにしても近年の死亡者数は顕著です。これは、高齢者が相対的に増えたことが一つ。そして、猛暑年の猛暑っぷりが激烈だという事なのかもしれません、

今回の台風は小型ながら大きなパワーを持って首都圏を直撃してきました。原因としては、海水温が高かった為ということで、突き詰めれば温暖化の影響の一つではないかということです。
台風、熱中症。いずれも温暖化の影響をジワリと感じます。

某国営放送の人気番組で「コアラは暑いから木に抱き着いている」という話をやっていました。ライチョウも暑いから日陰や雪田に行きます。
そして、彼らはエアコン持ってません。
私たちが夏を乗り切れなくなる前に、彼らが夏を乗り切れなくなるかもしれませんね。

雨の高山

山小屋の人と昔ばなしをしていて(「もう13年も経ったんすね」「年取ったわー」)必ず言われること。「〇〇君たちは雨の中でも調査に出ていたよね」

出てました。

ただ、山小屋の人たちとちょっと認識が違うことがありまして。
やる気があるから、根性で出てたというよりは、雨の日のデータも欲しかったからというのが正確な所かもしれません。

当時はライチョウを執拗に付け回し(彼らの視界は360°あるので、ばれてないわけはないんですが)、一分おきに行動を記録するという、ストーカー的な調査をしていたのです。

要するに。
好きな人のことは何でも知りたいの。

晴れの日だけ出ていたら、晴れの日のデータしか取れないのです。雨の日のライチョウの姿が分からない。ひょっとしたら、雨の日は雨に打たれながらダンスをしていた、そんなこともあるかもしれない。あるいはハイマツの下でゆっくり読書をしているのかもしれない。

その目で確かめるまで、それはわからないのです。

雨の日に気を付けるべきことは、体温低下です。それから稜線や沢筋は危険。
なだらかな場所、雷から退避できるような場所、鉄砲水がこないような場所で、防水防寒をしっかりしていれば雨の日でも調査は可能です。
ただ…電子機器は注意が必要で。どれだけ防水しても、湿気でやられます。

雨の日のライチョウは。
私の主観で恐縮ですが、のびのびとしているように見えます。奴らは完全防水の鉄壁羽毛で雨をはじくのです。

ライチョウと一緒に草原の中でしゃがんで、雨の音を聴いていた夏を思い出すと、山が恋しくなってきます。

那須岳の岩

那須岳の、茶臼岳山頂近辺の岩達は、ナッツ入りのチョコレートバーみたいなヒビが入ってました。

多分、凍結融解で砕かれたんじゃないかなぁ…と思います。確証はないです。石垣? とも思ったんですが、人工物ではないですよねー
山によって岩石が異なり、岩石が違えば砂礫も異なり、砂礫が異なれば地形も地質も異なり、地形も地質も異なれば植生も異なり、植生が異なれば生息できる生物も異なり…無機的環境から有機的環境に至るまで、生態学は考えることがたくさんあります。

ハイマツもガンコウランもクロマメノキもありますが、ライチョウの居ない山です。だからといって放鳥なんかしませんよう…居ないからには住めないのでしょう。