ライチョウブログ

サイト管理人のブログです。

掲載されている画像、動画は基本的には登山道から撮っています。

調査研究の一環として特別な許可を得て、登山道外に立ち入っているデータについてはその旨記載します。

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感染症

黒五はインフルエンザにかかったことがありません!(他人と接触することがないので)

昨今の人手不足により、私は「死んでも会社に行く」という部類の人間なので、流行性感冒には気をつけています。

警戒すべきはドアノブ。しかしドアノブをいくら消毒しても不特定多数の人が触れるので、ドアノブ側を消毒するのも限界はあります。

となると、自らの手を消毒すればいいじゃない! と、ドラッグストアに行くと、賢い人は既に消毒用エタノール買い占めてるんですね…

学生時代、ライチョウの感染症が話題になりました。ライチョウがたくさんいるような状況ならば、感染症が蔓延したとしても、中には健康な個体がいたり、抵抗性を獲得する個体がいるかもしれませんが、ライチョウのように少数であると一気に絶滅ということも考えられます。

ところで、私がインフルエンザにかからないのは、私が人混みに行かず、家から出て車に乗って会社に行って、会社帰りにスーパーに寄る、というような生活をしているからだと仮定すると、ライチョウにも同じようなことが言えそうです。

すなわち、大きな個体群の存在する場所でライチョウにとって致命的な病気がはやったとしても、稜線沿いに点々と存在している、小さな個体群の連なりが無事でありさえすれば、彼らがバックアップとして機能するのではないか。

小さな個体群が稜線沿いになぜ存在しているのかと言えば、環境が悪いからです。環境が悪いというのは、餌資源の量的問題、質的問題により、繁殖が難しいからだろうと思われます。ただ、こういう離れ小島で頑張って生息している個体は、病気が蔓延したような時には生き延びられるのかもしれません。

地球規模で気候が大きく変動し、植生が変化した時、こうした小さな個体群は真っ先に消えていってしまうでしょう。当面はそれでも問題ないように見えても、大きな個体群で感染症が蔓延すれば、あっという間に絶滅、ということも考えられます。

ライチョウは手指の消毒なんてできませんから、まずは高山に下界生物が侵入してしまうような筋道を人間が付けてしまわない事、また持ち込まない事。そして、小さな個体群が生き残れるよう、私たちの生活を見直していくことが大切だと思います。

暖冬

雪がないんだ…

私の故郷の一つは秋田です。
久々に原住民より連絡が来たのですが、1月に入ってから雪が積もっていないそうで。

秋田は小正月に様々な伝統の祭りが開催されるのですが、これではなんとも…

積もっても積もらなくても厄介なのが雪。温暖化の影響、というのは短絡的ですが、気候の「振れ幅」が大きくなっているのは実感します。
「地球温暖化」という言葉だけつかまえて、現在の寒冷地で農作物が採れるようになるからいいじゃないかとか、気温が数度高くなったところで人類には影響しないとか、そういう浅い考えが問題を先送りにし続けてしまったかもしれません。

「地球温暖化」の恐ろしさというのは、予測不能な事象がグローバルに起こるということです。
例えば腸内の細菌目線で考えてみましょう、アナタの昨晩の飲みすぎ、食べすぎ、脂、食物繊維、口腔内から侵入してくる細菌、ビタミン等等等々、アナタの心がけ次第で、便秘になったり下痢になったり、緩いウンコが出たり、カッチカチのウンコになったり…あの時食べた、あの屋台の牛串、ちょっと生っぽかったかなぁと、ウイルス性胃腸炎で三日三晩苦しんで、後悔したって後の祭りです。ほんときついデスヨネ。でも、牛串を食べたその時、まさかその後、夜中10分に一回トイレに駆け込むような目に遭うなんて思ってもみないでしょう?(しかも和式) 食物についてやってきたウイルスに、体は激烈に反応し、腸内細菌たちは腸壁にしがみつき、ただただ水分でウイルスが押し流されて消えるのを待つのです。細菌叢が復活するのには相当な時間がかかるでしょう(と言っても、細菌目線の時間スケールで)。

温暖化ってそういう事です。単に気温が上昇するのではありません。
災害のようにやってくる、猛暑、冷夏、台風、豪雪、暖冬…地球の表面辺りの無機的環境が、今までとは違うパターンに変化するのです。
我々は堅固な家に暮らしているので、生きながらえたとして、例えばシカは豪雪年に大量遭難するとかしないとか。この暖冬は何をもたらすでしょう。イノシシの北進でしょうか? 日本で新たな病気が発生して、パンデミックを? 山に雪がない上に猛暑が重なって、大干ばつが?
けれども、一度食べてしまった牛串が元に戻らないように、今起こっていることはどうしようもない、止めようがない。今年は記録的暖冬です。桜の開花も早いでしょう。
せめて将来もっとひどいことにならないようにするには、今が肝心なのです。人類は滅びないかもしれませんが、突然のウイルス性胃腸炎を腸内細菌たちが耐え忍ぶのと同じように、相当期間、環境が安定(ヒトにとって)するまで、耐え忍ぶ未来かもしれません。

ライチョウの場合、短期的には育雛への影響、長期的には植生の変化が考えられます。例えば、ハイマツというのは雪で覆われるから、冬の乾燥や風害を避けられるのですが、雪が少なくて露出すると、強風に飛ばされた砂粒や氷で表面を傷つけられ、そこから乾燥してしまう。根っこの方の水分も凍っているので、枯死します。

そうなると、ライチョウの営巣環境が失われる、可能性があります。

でも、雪解けが早ければ、育雛期が長くなって繁殖にはいいかもしれない。

いやいや、雪解けが早すぎて、雛が食べられる柔らかい葉っぱがいいタイミングで出てこないかもしれない。

いろんな事を、考えなければいけないのです。短絡的に考えてはいけないのです。

ダボス会議

お気づきかどうかわかりませんが、冬場というのは山に行かないのでネタがないのです。ないのでそんなに更新することもありませんが、ダボス会議が始まりましたね。

グレタ氏vsトランプ大統領という構図が、若者vs老人に見えてしまった中年(?)の私です。
グレタ氏を批判する人達はなんとなく会社のエラい人たちに似てるなぁ、会社辞めてく若い子達と断絶してるなぁと。

グレタ氏を批判する人達の立場もわからないでもないのです。

しかし、環境保全の原則的な考え方は「予防」にあり、「疑わしいなら対策を」です。グレタ氏の考え方は、子々孫々のことを考えてエシカル(倫理的に正しいと思う消費)に考えて行動する人達がいて、それに応えたい企業も団体もたくさんあるのに、各国の行政はもっとそれを後押ししなきゃいけないのでは? ということではないかなと思っています。
それを、批判する人達の論理が「おまえはまだ若いから」「おまえもえらくなったらわかる」と説教するえらい人(?)達に重なります。

仮に温暖化の原因が人類でなかったとして? だとしてもやらなければいけないのです。90%そうだと科学者達が言っている。残りの10%の可能性に現世の生物の命運をかけますか。

日本人は、お上の言うこと信じて、わーっと盛り上がってわーっと一方向に進んでいって、アカンようになったり(戦争)、うまくいったり(高度成長)、また落ち込んだり(バブル)。最近では、あっという間にキャッシュレス決済が浸透しました。たった一年です。だからグレタ氏の言うように行政が動けば案外日本人は速やかに低炭素な生活に移行できる気がしますが。

「お上が言ったから」ではなくて、「私個人としてエシカルに考えて」行動したいなというのが私の考えです。

一人一人、できることは違います。家庭環境、仕事、経済状況、思想、自然観、宗教観、年齢…様々なバックグラウンドを持つ私たちが少しずつ、できることからエシカルに行動することが、大切なんだと考えています。

コンビニで、プラスチックバッグを断るのはおばあちゃんやおじいちゃんと聞きました。孫や曾孫の為にと、できることをやってくれているのかな、と想像しています。

デンドロカカリヤ

コモン君がデンドロカカリヤになった話―安部公房「デンドロカカリヤ」

安部公房のデンドロカカリヤという作品は、とても奇妙なSFです。端的に言えば、冒頭に書いたように、コモン君がデンドロカカリヤになった話です。
安部公房の作品は、デパートの屋上に居た男が棒になったり(「棒」)、詩人が糸になってジャケツに編まれたり(「詩人の生涯」)することが多いですが、デンドロカカリヤという字面からどんなもんに変身したのかと読者は思うわけですが、こちらがそのデンドロカカリヤです。和名はワダンノキと言って、小笠原諸島に自生するキク科の木本植物です。キクなのに木本なんですね。

こちらは小石川植物園のリニューアルした温室です。作中出てくるのはK植物園。安部公房も実際に小石川植物園でこれを見たのではないか~というのですが、当時の個体なんでしょうか。

小石川植物園には「冷温室」という、矛盾を孕んだ温室があります。ここは常に冷涼な環境が保たれていて、高山植物のサンプルもここに保存されています。

つつましいクロマメノキ
つつましいガンコウラン

デンドロカカリヤも小笠原の固有種で、孤立しているという点では高山植物と似ています。絶滅危惧種ではないけれども、その島、その高山に固有の生態系を構成するのに欠かせないものです。

ライチョウ、オオカミ、トキ、ジュゴン…彼ら「目立つ」絶滅危惧種を助けたいと願う時、最終的には彼らを支えている生態系そのものを保存しなければいけないんだ、というところに行きつきます。(そういうところに行きつかない生態系保全というのは、ちょっといかがなものかという活動が多いように思います)
こうして、デンドロカカリヤやクロマメノキ、ガンコウランなどを本来の生育地から切り離し、温室を設けて保存するのは学術的に非常に重要な事ではありますが、保護とはまた違うものなのです。これは、「野生絶滅種」になった時のバックアップとして重要なのです。

動物に目を向けると、日本の動物園で見られる野生絶滅種はシフゾウです。彼らはもう野生の状態では生きているかどうかわからないです。

このままいけばそんなに遠くない未来にニホンライチョウも野生絶滅種となり、動物園で保存される存在になってしまうのかもしれません。

温暖化で北アルプス豪雪

地球温暖化が進行すると、今世紀末には北陸地方の豪雪頻度が高くなるというシミュレーション結果が東北大学、気象庁気象研究所、海洋研究開発機構、名古屋大学のチームによって示されました。
簡単に言えば、①温暖化によって日本海の冬季の空中への水蒸気供給量が増える②山岳地帯の上空では温暖化が進行しても0℃以上となるわけではない ということで、雪が増えるという仮説がシミュレーションによって補強されたということです(多分、もっと複雑な話ですが)。

「温暖化は証明されていない」とか言う言説も見られます。未来を予知するのには膨大な知見の収集と多くのシミュレーションが必要であるし、当然幾通りもの未来が見えます。
その不確かさを考えたとしても尚、現在の温暖化は人類のせいであるというのが「今のところ」多くの科学者が出した結論です。そして、人は地球上の生物、環境から多くの恩恵を受けており、これを人間が変えてしまうことは私たち自身の種の存続が危うくなるから今、行動を起こしましょうという提起がなされています。
もし、今まで通りの自然環境の恩恵を受け続けたいなら、私たちが生き方(ライフスタイル)を変えなければいけませんよ、というのがCOPで議論されている事なのです。証明されたときには手遅れだよ、だから先手を打つんだよ、と。

この「生き方を変える」というのが厄介です。
大西洋をヨットで渡るとか、家の中全部太陽光発電で賄うとか、だいぶディープな活動家の皆さんが叩かれがちなのは、「みんなにそれをやれっていうのか!」「非現実的だ!」という素朴な反発心の表れとともに、私たちは根源的に自分のライフスタイルを変えたくはないし、他人にとやかく言われたくない生き物であるということです。
部屋を片付けなさいと言われて息子が片付けないのと同じです。ちょっと違うか。

もちろん、人間以外の動物だってそうです

ライチョウもライフスタイルを変えて進化することは無理なので、今こんなことになっているのです。

温暖化によって、高山の雪が増えるか減るかしてもライチョウのライフスタイルは変わりません。もちろんライチョウが採食している植物のライフスタイルも変わりません。しかもライチョウも高山の植物も寒冷地の物なので、山の下方向への逃げ場はありません。だから環境が変わっても、変われない彼らは行き場を失います。

雪が増えたとしたら何が起きるのか、それとも起きないのか。

いくつか考えるべきことがあります。
・積雪期の積雪深
・融雪期の融雪速度
多く積もって一気に溶けるパターン、多くなるから数十年前のように溶けるのに時間がかかり8月まで雪田が多く残るパターン。この二通りのどちらかに寄っていく(と仮定する)。そうすると、
・植物が露出する時期
が変化します。前者なら大きなお花畑が一気に出現するようになり、後者ならお花畑が融雪線に沿って進行していきます。
恐らく、ライチョウの雛の採食物を考えた時に都合がいいのは後者です。

じゃあ、どっちのパターンなんだということですが、はっきりとは言えません。データが無いのです。
ですが、100年前よりライチョウが減っているとしたら、たぶん前者なのです。高山の積雪深を計るのは容易ではないのですが、今回の発表からすれば100年前より積雪量は増えているのでしょう。けれども雪が溶けるのも早い。そうなってしまったのではないでしょうか。

ライチョウも植物もライフスタイルを変えることはできません。
けれども人間はライフスタイルを変えてきました。変えた結果、幅を利かせるようになってしまいました。けれども、良い方向に変えることもできるのです。
ほんの少し、誰かの為に、できることから、行動を変えてみませんか?