予防原則

あと1mで越水

大学では林学を学んでいましたが、とりわけ砂防関連の授業は印象的でした。各地の砂防堰堤や堤防を見学に行った中で「脱ダム宣言だとか、300年に一度の洪水の為の堤防なんか要らないと言われるけれど、ひとたび大水が出たならこれが何万人もの人の命を守るんです」、と。現場の方が仰っていたのが印象的でした。

今回、荒川も利根川も溢れなかったのは、八ッ場ダムのお陰だけでもないでしょう。数多くの砂防堰堤が土砂や流木を上流にとどめて水だけを下流に速やかに流してくれたのです。江戸時代の人たちが、荒川放水路を造ってくれたから、都心部は守られたのです。沢山の人達の100年の努力が無かったら、私も生きてはいられませんでした。なにしろ、利根川、荒川、多摩川が決壊すれば、関東平野のどこにも逃げ場はないんです。

予防、というのは安全の基本です。山でも「危険に出会ったら」より「危険に遭わない為に」多くの勉強をします。

今後、温暖化の進行に伴い、このようなスーパー台風がやってくる頻度は高くなると予測されています。「温暖化仮説は嘘だ」と賢しげに言って何もせず、温暖化の影響が出始めて、それから対策したのでは持続可能な発展など望めもしないでしょう。

予防することです。

コンビニでマイバッグを取り出すのが恥ずかしい? そんなこと言ってる場合ですか。できることから、コツコツと、です。

2019年10月14日 | カテゴリー : エコライフ | 投稿者 : 黒五

台風の思い出

富山(調査地)に行こうと思ってると台風がやってくるという…平日に来てくれればいいのに。

忘れもしないといいつつ何年前だったか、5年前? 6年前? 9月に富山県有峰の太郎平小屋にお邪魔したところ、台風直撃で。私自身は風雨は気にならないんですが、有峰林道が雨で通行禁止になると帰れないので、ザーザー降りの中、頑張って下りまして。

無事、下りたはいいものの、北陸道が途中で閉鎖。

新潟から黒くうごめく濁流の姫川沿いを、崖の上のポニョよろしくな状況で南下し、ほうほうの体で抜けたことがあります。

長野市あたりに着いた頃には台風一過の青空でした。

「そう言えば、山小屋で台風経験したことないですね」と今年の6月に小屋で話していたので、タイミングが合えば嵐の高山の模様をぉとどけできるのですが。台風の進路と速度次第です!

日光のサル軍団

中禅寺湖一周苦行の旅動画第二弾。
サル軍団です。

道中に人糞のようなフンが結構落ちていたので、これはサルだなぁと思っていたら案の定。
逃げずにこちらを見てるのがボスなんでしょうか。サルと喧嘩なんかしたくないので、速やかに立ち去りました。

この地域、まあまあ結構な頻度でサルを見かけますし、場合によってはこうして包囲されます。
間違っても餌をあげたり威嚇したり手を出してはいけません。ここは彼らの領域です。

シカの授乳

中禅寺湖一周苦行の途中。割と序盤でシカの親仔に逢いました。
こんなに大きくなってもお乳欲しがるんですね。でも、お母さん嫌がって早めに切り上げられちゃった感じです。

このあたりの植生は下層植生がほとんどありません。
かなりの密度でシカが生息しているものと思われます。
あまり人を怖がる風でもないので、追われたことがないのでしょう。

というわけで、この中禅寺湖一周の苦行中、シカ一回、サル二回、リス二回見ました。まだまだケモノ寄せスキルは衰えてません。

奥日光の自然

中禅寺湖から男体山

日光東照宮から、いろは坂を登ったところにある中禅寺湖は標高1,269mです。
日光市街が標高約600m、華厳の滝を挟んで中禅寺湖が標高1,269m、竜頭の滝を挟んで戦場ヶ原が1,400m、湯滝を挟んで湯ノ湖が1,475mと、湯川に沿って滝毎に段々になっています。
高標高の湖で、寒冷な気候も手伝って貧栄養の湖ですので、元々魚はいなかったようですが、明治以降に持ち込まれたようです。(当時は生態系の攪乱なんて概念は無かったのですね)

一周25kmのこの湖を、私は8時間で踏破します。修行です。修行。頭を空っぽにして歩くにはちょうどいいんです。
特に南岸部はうねうねとした岬を回る退屈な山道で、全体の半分以上がそんな調子なので、すれ違った人も数名、といった具合です(それも一周する人はいないのでは)。
見どころは、この写真のように湖越しの男体山。それから、クリンソウが咲く千住ヶ浜の辺りです。

ひさびさに行って(3年ぶり?)少し驚いたのは、湖周辺で数多くの観光開発が行われていたことです。なるほど。日光駅から湯ノ湖に至るまで、T鉄道さんがバスでつないでいるし、東京から日光までは電車で容易にアクセスできる。多くの海外からのお客さんを呼び込めますね。

日光一帯の自然は寒冷な気候が生み出した景観です。標高が100m上がれば平均気温が0.6℃下がるというのが、私の学生時代からの常套句ですが、日光市街と中禅寺湖では3.6℃も差があるんです。
戦場ヶ原は4.8℃も低くなります。だから貧栄養の湖や高層湿原ができるのです。
温暖化したら高層湿原の有機物分解速度が上がって湿原が消え、中禅寺湖の透明な色も失せるかもしれません。

気候正義

9月23日ニューヨークで開かれた国連気候行動サミットで、スウェーデンのグレタ・トゥンベリ氏(16歳)が演説を行いました。

NHK NEWS WEBにその全文和訳が掲載されていたので、読んでみました。

「私たちは大量絶滅の始まりにいるのです。なのに、あなた方が話すことは、お金のことや、永遠に続く経済成長というおとぎ話ばかり。よく、そんなことが言えますね」

出だしの辺りが人々の心をわしづかみにしてくる意欲的な演説だったようです。
内容としては、彼女のようなティーンエイジャーの立場から、地球温暖化の問題を先送りにし、あまつさえ若者にその解決を押し付けようとしている「現在の大人たち」への非難し、今すぐ解決せよとアクションを迫るものです。

彼女の主張は世代間の不平等を訴えている側面があります。
また、二酸化炭素の排出に関して言えば、二酸化炭素を大量に排出しているのは世界の中でも裕福な国々で、途上国は排出していません。
けれども、どんな世代もどんな地域の人も地球温暖化によってさまざまな不利益を被ることになります。
これは不平等ですね、という立場に立つのが気候正義(気候公平性)です。
もちろん、ライチョウを含めてあらゆる生物に拡張しても良いと私は考えています。

私が地球温暖化の問題に初めて触れたのは、学研のまんがサイエンス(あさりよしとお)で、それが90年代半ばのことなのです。そこから地球温暖化の問題は解決したかと言うと、全く解決せずに、排出量はどんどん増えていったのです。

じゃあ、どうすればいいのか、どうしたらよかったのか。
この点について、この日本という国はほとんど無策だったのかもしれません。野生生物の話で申し訳ないのですが、シカが問題だ、クマが問題だと比較的卑近な環境の変化には敏感に騒ぐものの、『地球』温暖化というと、途端にふんわりとしてしまいます。なんだか、北極の氷が解けるような、遠い国の氷河が消えるような。そんな感じなのかもしれません。
温暖化懐疑論というものがありまして、私も一時期懐疑論について多く調べていましたが、しかしながら懐疑論では近年の気候変動を説明できないのです。
ここ数年でその流れが変わってきたのかもしれないと思うのは、集中豪雨や台風の害が甚大化してきた後に、温暖化の影響と説明がつくようになってきてからです。
もっと早くにライチョウはその影響を受けて、数を減らしていたかもしれないのですが、やはり他人事で、実際に自分たちの喉元にナイフを突きつけられるまで、当事者意識というのは生まれないものかもしれません。ライチョウはいち早く温暖化の影響を受ける生物ですが、ちょっと身近さが足りなかったのではないかと思います。

とはいえ。ライチョウの生態をもっと追及することは、地球温暖化に対して「具体的な」アクションを迫るグレタ氏の意見を補強する物であります。

具体的にどうしたらいいのか。
脱プラスチックを叫ぶなら、タピオカ飲んでる場合じゃないのです。
働き方改革を叫ぶなら、とっとと帰らなければいけません。
Think globally, act locally
 一人でも多くの人がそうすれば、大きなムーブメントが出来上がります。

ライチョウのフン

耽美なフン

9月の或る日のこと。
野生生物を扱っていると、たいていフンを扱うと思われる。シカのフン、クマのフン、ライチョウのフン…となると自分のフンのチェックだって欠かさない。
いつものように流す前に色形をチェックしたところ。

黒い。

説明しよう。自分のウンコの色が、茶色~黄色ぐらいは正常である。
白、黒、赤はいけない。

白いのであれば、胆汁が出ていない。
赤いのであれば、大腸の下部で出血している。つまり痔である。
黒。これもまずい。消化管の上部で出血している場合がある。

胃がんか? 大腸がんか? ああ、保険はいっとけばよかったなどと、頭の中で一通り考えを巡らせたのち。

うん。昨日はイカ墨スパゲッティをおいしくいただいたんだったね。

このように。フンは食べているものによって色形が変化します。
ライチョウの場合も顕著で、写真の紫のフンは紫のものを食べたからで、緑のものを食べると緑のフンが出てくる。ふざけてなんかいない。本当である。ライチョウだってイカ墨を食べたら黒いフンが出るに違いない(そんな日は来ないと思いますが)。

今ぐらいの時期、ライチョウはクロウスゴ、クロマメノキ、ガンコウランなどの果実を積極的に採食します。結果、糞はその種と色味が出てきます。春先はガンコウランの旧葉などを食べているので、硬くて茶色いしっかりしたフン。夏の間は柔らかい葉を食べるので緑色のフン。そして、秋には紫になるのです。
現在、中部大学にて、ライチョウのフンからDNA解析で食べたものを突き止められないかという研究が進行中です。
ライチョウの口元を撮影するのは正確ではありますが、見えてないところで何を食ってるかわかりませんので、そこはこういう研究がカバーしてくれるものと思います。

よだかの星

うつむきかげんから
パカッと

オーストラリアガマグチヨタカ先輩を拝みに池袋サンシャインシティのヘンな生き物展行ってきました。かわいいですね。アンニュイなのは、単に昼間だからでしょうか。

ライチョウ先輩のクチバシとくらべると、かなり、すごく、大きなクチバシです。
昆虫を食べるのに適していそうです。

宮沢賢治のよだかの星を読んで、いつか会いたいと思ってましたが、なかなかキュートでした。
よだかの星(青空文庫)→https://www.aozora.gr.jp/cards/000081/files/473_42318.html

命ってなんだ、という話だと勝手に思ってますが、どうでしょう。
星も獣も虫も鉱物も植物も魚も菌も鳥も、科学の前では等しく命です。

ライチョウで飯が食えるか

同窓会にて。

「今何やってんの?」
「経理だよ」
「すごーい、どこで経理の勉強したの???」
「……」
どうも、世の中、自分の学んだことしか職業にしちゃいかんような呪縛に囚われている人がいるようですが、そんなことはありません。
ちなみに経理も生態学も私にとっては大差ないことです。

修士1年の秋。
就職しよう、と思いました。

大学4年生から2年間ライチョウを追いかけ続けた私の心になぜそういうココロが芽生えたのでしょう。
大学の研究室に出入りしていて、研究職で身を立てるのは大変そうだとわかったこと。
それから、山小屋で、皿洗いや床磨きを一生懸命やって、「働く」ということがどういうことなのかが少しわかり始めたこと。
山の中で過ごして、当時ひん曲がっていた心根が、素直になったこと。
そして、なんだか、社会に出ても大丈夫なんじゃないか、と妙な自信がついたこと。

「アナタは絶対研究者向き。公務員や会社員には向いていない」と周りから言われていたけれども、そうだろうか? 周りがそう言っていたからそんな気がしていただけで、本当のところは社会に出てひと暴れするのが今生のお仕事なんじゃないのか?

そんなこんなで、ゼミのスキマを縫うように就職活動を開始。
後輩の卒論を見ながら面接を受け続け、納得のいく就職先に出会えました。

後々、人事の偉い人に「なんで採ってくれたんです?」と尋ねたところ「山小屋に入って何カ月も調査に出てたってとこだよねー」だそうで。
どこに放り込んでも(例えば僻地の古い事業所)生き残りそうだということで。
実際、その後、各地を転々としながら、ちょいとハードめの育てられ方(詳細省略)をして、今の今まで元気に生きてます。さらにしぶとく、図太くなってます。

先生からは「君はずっとライチョウの研究をしてくれるものだとばかり思っていた」と言われました。
すいません。私はみんなが思っているほど、研究職には向いていないんです。 どちらかと言えば、人を引っ張るよりも押し上げるのが得意なのです。

一方で、ライチョウの事はライフワークとして、サイドストーリーとして、老後の楽しみとして続けていければ良いのかなと思っています。
ライチョウの研究でご飯は食べられないから、他で飯のタネを見つけて、余った時間とお金をライチョウにつぎ込んだらよろしいのです。

ただ私が老後を迎える前にライチョウが滅ぶと、私の老後計画が破綻するので、それは食い止めたいところです。

台風と熱中症

台風15号の風が吹く中、普通に出勤しまして。
近場組と車、二輪車組は到着。
電車の遠方の人は「昼まで電車動かないって」「おとなしく休んでください…」

2011年の地震の時、東北のある都市で勤務してました。
あの時、上司が当然のように出社して言ったことには「連絡なんかしなくても皆出社してくるだろう」。
災害で、ガソリンの供給がなくなって、停電して、信号機も止まっていて、それでも職場に向かうのって、どうなんだろうと新入社員なりに思った記憶があります。

今回の台風で、やっとそういう議論が出てきて。10年以上かかって、ようやく気が付いたんですね…家で、家族を守る方が、会社に行くことよりよほど大事です。

停電で、エアコンが使えず熱中症になる方が出ています。エアコンが無ければ我々夏を乗り越えられないかもしれないのかもしれません。
熱中症の傾向を厚生労働省が公開していました。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121413.html

残念ながら昭和の頃のデータは無いようですが、それにしても近年の死亡者数は顕著です。これは、高齢者が相対的に増えたことが一つ。そして、猛暑年の猛暑っぷりが激烈だという事なのかもしれません、

今回の台風は小型ながら大きなパワーを持って首都圏を直撃してきました。原因としては、海水温が高かった為ということで、突き詰めれば温暖化の影響の一つではないかということです。
台風、熱中症。いずれも温暖化の影響をジワリと感じます。

某国営放送の人気番組で「コアラは暑いから木に抱き着いている」という話をやっていました。ライチョウも暑いから日陰や雪田に行きます。
そして、彼らはエアコン持ってません。
私たちが夏を乗り切れなくなる前に、彼らが夏を乗り切れなくなるかもしれませんね。